【加筆修正】すべては自分次第か?日瑞の青年意識比較から見えること

すべては自分次第か?-Does everything of life depend on me?-

はじめに

 本稿では人生の自由についてスウェーデンと日本を取り上げながら検討する。具体的には、世界価値観調査の「自分の人生をどれほど自由に動かせるか(How much freedom of choice and control over own life)」に対する回答および、日本内閣府の「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」をふまえて、スウェーデンと日本の生年意識を比較し、人生を自由に生きられることについて考察する。人は誰しも自分以外の人生を生きることはできない。人生を自由に生きられるとは換言すれば、人生における選択と決断を自らに由って行えるということである。そこでは他人や社会の口出しを認める余地はない。もし人生で自由が感じられないならば、それは自らの選択と決断が他者に侵害されていると言えるのではないだろうか。人生が、それを生きる者の選択や決断とは無関係に定まるとしたら、それはいったい誰の人生なのだろうか*1

 

 長年に亘って困窮した状況に置かれていると、その犠牲者はいつも嘆き続けることはしなくなり、小さな慈悲に大きな喜びを見いだす努力をし、自分の願望を控えめな(現実的な)レベルにまで切り下げようとする。

――アマルティア・セン*2

 

自分の人生をどれほど自由に動かせるか

 はじめに、舞田敏彦が世界価値観調査(World Value Survey)の2010-2014版をもとに作成した下図[1]を見てもらいたい。「自分の人生をどれほど自由に動かせるか(How much freedom of choice and control over own life)」に対する20代の回答である。

 

 

 これを見て分かるように日本は最下位に位置している。すなわち、他国と比べて日本の若者は人生が自由ではないと感じていることが分かる。日本と比べると、スウェーデンはそれよりもずっと上に位置し、また男性よりも女性の方が人生を自由に感じている。これに対し日本人はポジティヴな回答を避ける国民性があるという反論がなされるかもしれない。以下で日本の内閣府が行った「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」の回答についても見ていくが、もし国民性があるとしてもそれこそまさにその国の風潮を表すものであると考えられ、ポジティヴな回答をしたがらない日本の国民性でもって回答結果の妥当性が著しく揺らぐわけではないだろう。

 内閣府の調査は日本,韓国,アメリカ,英国,ドイツ,フランス,スウェーデンを対象国とし各国満13歳から満29歳までの男女に行われている。この調査結果のうち主に不安と選択に関わるものを取り上げていく。

・悩みや心配事の有無

 

現在の悩みや心配事の有無を日本の若者に聞いたところ,「自分の将来のこと」(79.4%)「お金のこと」(75.9%),「仕事のこと」(74.8%)等の項目で,『心配』(「心配」+「どちらかといえば心配」)と答えた割合が高い[2]。(p.20)

 

 同項目についてスウェーデンでは「自分の将来のこと」(52.7%)、「お金のこと」(51.7%)、「仕事のこと」(44.1%)となっており、スウェーデンよりも日本の若者がこれらについてずっと不安に思っていることが分かる。また「進学のこと」に関しては『心配』と回答した者が日本ではスウェーデンより30%以上も多い。同様に進路に関わる「就職のこと」では20%の開きがあり、日本では若者が就職以上に進学に関してスウェーデンよりも大きな不安を抱えていることが分かる[3]

 

・将来への希望

 

日本の若者に将来への希望を聞いたところ,『希望がある』と答えたのは 61.6%(「希望がある」12.2%+「どちらかといえば希望がある」49.4%)である。

7か国比較で見ると,アメリカ(91.1%)とスウェーデン(90.8%)は『希望がある』と回答する割合が9割以上,英国(89.8%),韓国(86.4%),フランス(83.3%),ドイツ(82.4%)も『希望がある』が8割以上を占めており,日本が最も低い割合となっている。(p.28)

 

 日本では『希望がある』と答えたのは約3人に2人だったが、スウェーデンでは10人中9人が『希望がある』と答えている。ただし、日本の若者の意識には自分への満足感が関連していると内閣府は分析している[4]。なお「私は、自分自身に満足している」という質問に『満足している』(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」))と回答した者の割合は日本45.6%(7.5%+38.3%)、スウェーデン74.5%(21.3%+53.2%)である。

 

・社会規範

 

日本の若者に社会規範について聞いたところ,「いかなる理由があっても,いじめをしてはいけない」に『そう思う』と回答した割合は,85.6%(「そう思う」50.1%+「どちらかといえばそう思う」35.5%),以下,「いかなる理由があっても,約束は守るべきだ」(76.2%),「困っている人を見たら頼まれなくても助けてあげるべきだ」(74.0%)となっている。「他人に迷惑をかけなければ,何をしようと個人の自由だ」に『そう思わない』と回答した割合は,53.2%(「どちらかといえばそう思わない」28.8%+「そう思わない」24.4%)となっている。(p.43)

 

 「他人に迷惑をかけなければ,何をしようと個人の自由だ」に『そう思わない』と回答した割合は日本が最低で、スウェーデンの77.2%のように他の諸国は総じて7割を超えている。スウェーデンでは「困っている人を見たら頼まれなくても助けてあげるべきだ」に『そう思う』と答えている割合は最も低い韓国の66.9%に次いで低い(70.0%)[5]

 

・男女の役割観

 

a)男は外で働き,女は家庭を守るべきだ

日本の若者は,「賛成する」が 22.3%,「反対する」が 38.7%である。

7か国比較で見ると,「賛成する」の割合は,アメリカ(26.9%),英国(25.5%)で高く,スウェーデン(6.6%),フランス(10.2%)で低い。(p.48)

 

b)子どもが小さいときは,子どもの世話をするのは母親でなければならない

日本の若者は,「賛成する」が 25.4%,「反対する」が 40.2%である。

7か国比較で見ると,「賛成する」の割合は,ドイツ(60.2%),アメリカ(60.0%),英国(57.4%)で高く,フランス(23.0%),スウェーデン(29.8%)で低い。(同)

 

 性別役割分業に関して日本の若者は反対である者が多いというよりも、賛成でない者が多いと見る方が正確だろう[6]。(a)と(b)のどちらについても「分からない」という回答が30%を超えている。スウェーデンでは性別役割分業に対して反対する者が過半数である。

 

・仕事と家庭の関係

 

仕事と家庭との関係について,日本の若者に聞いたところ,「家庭を持つと働きにくい職業がある」(78.6%),「家庭や子育てと仕事を両立できる企業が少ない」(68.2%),「家庭生活を考えると転職や仕事を辞めるのは難しい」(67.7%)等の項目で,『そう思う』(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)の割合が高い。(p.50)

 

 同項目についてスウェーデンでは「家庭を持つと働きにくい職業がある」(85.8%)、「家庭や子育てと仕事を両立できる企業が少ない」(45.0%)、「家庭生活を考えると転職や仕事を辞めるのは難しい」(64.6%)となっている。仕事と家庭の両立を気に揉む点は両国とも変わりないが、その実現に際しては事情が異なるようである。スウェーデンでは日本よりも「家庭や子育てと仕事を両立できる企業が少ない」とする回答が少なく、また「子どもを産み育てるために会社を一定期間休んだ後,職場に復帰することが難しい」に『そう思う』と答えたのはスウェーデンで39.0%、日本で64.9%であることから[7]、企業側が家庭と仕事の両立に日本よりも対応しているものと考えられる。

 

・性別と進路選択の関係

 

日本の若者に,進路や職業を考える際に性別を意識するかどうか聞いたところ,『意識する』と回答したのは 42.3%(「意識する」6.4%+「どちらかといえば意識する」35.9%)である。

7か国比較で見ると,ドイツ(67.3%)とアメリカ(66.3%)では7割近くが『意識する』と回答している。一方スウェーデンでは,『意識する』は 30.2%にとどまっている。(p.53)

 

 これに対して「意識しない」と回答した者はスウェーデンでは日本のほぼ2倍にあたる46.7%であり、性別役割分業に反対する上述の結果もあるようにスウェーデンにおいて性別は主たる判断材料としては考慮されない傾向にあると言えよう。

 

・結婚観

 

日本の若者に結婚観[8]について聞いたところ,『結婚したほうがよい』と考えているのは62.5%(「結婚すべきだ」16.7%+「結婚したほうがよい」45.8%)である。

7か国比較で見ると,『結婚したほうがよい』との回答割合が最も高いのは韓国(67.1%)で,以下アメリカ(52.3%),英国(51.5%),ドイツ(46.4%),フランス(38.9%),スウェーデン(24.3%)の順となっている。(p.54)

 

 スウェーデンでは「結婚しないほうがよい」という回答が64.9%を占めており、この回答が過半数であるのは他にはフランス(52.0%)だけである。結婚していない同棲者を保護する仕組み(スウェーデン「サムボ法」、フランス「民事連帯契約(PACS)」)がこの背景にあると考えられる。

 

・離婚観

 

離婚観について日本の若者に聞いたところ,「子どもがいれば離婚すべきではないが,いなければ,事情によってはやむをえない」(32.3%),「子どもの有無にかかわらず,事情によっては離婚もやむをえない」(30.7%)がそれぞれ3割程となっている。「互いに愛情がなくなれば,離婚すべきである」は 6.9%である。

7か国比較で見ると,「いったん結婚したら,いかなる理由があっても離婚すべきではない」の割合は,アメリカ(20.5%),韓国(17.3%),英国(16.0%)で高い。

「互いに愛情がなくなれば,離婚すべきである」は,スウェーデン(30.3%)で最も高く,フランス(25.1%),ドイツ(23.4%)でも,それぞれ約4分の1を占めている。(p.58)

 

 「結婚したら、いかなる理由でも離婚すべきでない」という回答は日本で13.7%、スウェーデンでは4.9%(7か国中最低)である。スウェーデンの回答からはあくまでも当事者間の心情が離婚を決めるという傾向がうかがわれる。

 

・政策決定過程への関与

 

日本の若者に政策決定過程への関与について聞いたところ,『そう思う』(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)の割合が最も高いのは「子どもや若者が対象の政策や制度は対象者に聞くべき」(67.7%)である。次いで,「私個人の力では政府の決定に影響を与えられない」(61.2%),「社会をよりよくするため,社会問題に関与したい」(44.3%)となっている[9]。(p.66)

 

同項目についてスウェーデンでは「子どもや若者が対象の政策や制度は対象者に聞くべき」には78.0%が、「社会をよりよくするため,社会問題に関与したい」には52.9%が『そう思う』と回答しており、日本とそう差はない。しかし「私個人の力では政府の決定に影響を与えられない」に『そう思う』と答えているのは39.2%(7か国中最低)であり、日本のみならず他国とも決定的な違いを見せている。

 

・社会観

 

自国の将来は『明るい』と考える日本の若者は,28.8%(「明るい」2.6%+「どちらかといえば明るい」26.1%)にとどまっており,『暗い』が過半数(「暗い」16.0%+「どちらかといえば暗い」38.2%)を占めている[10]

7か国比較で見ると,『明るい』との回答割合が最も高いのはスウェーデン(67.8%)で,以下,ドイツ(66.3%),英国(59.6%),アメリカ(57.0%),韓国(43.1%),フランス(36.0%)の順である。(p.70)

 

 スウェーデンでは「明るい」と考えている割合が20.4%と日本の約8倍もある。「暗い」と考えている割合はドイツ(5.9%)に次いで低い水準にある(6.1%)。

 

・自国社会の問題

 

日本の若者に,自国社会の問題を聞いたところ,「就職が難しく,失業も多い」(47.7%),「まじめな者がむくわれない」(41.4%),「よい政治が行われていない」(39.1%)等の項目が上位にあげられている[11]。(p.71)

 

同項目についてスウェーデンでは「就職が難しく,失業も多い」50.4%、「まじめな者がむくわれない」30.3%、「よい政治が行われていない」29.0%である。ちなみにスウェーデンでは「人種によって差別がある」が他国に比べると高い割合(45.2%)となっている(次点はアメリカの40.9%)[12]

 

・社会で成功する要因

 

社会で成功するために重要なものを日本の若者に聞いたところ,「個人の努力」(34.0%)をあげる人が最も多く,次いで「個人の才能」(25.3%),「運やチャンス」(17.2%)となっている。(p.74)

 

 同項目についてスウェーデンでは「個人の努力」「個人の才能」という回答はほぼ同率(36.0%、23.8%)だが、「運やチャンス」という回答は5.3%にすぎない。日本の特徴は「身分・家柄・親の地位」の回答が7.4%と他国よりずっと低いことである。

 

・転職に対する考え方

 

日本の若者に転職に対する考え方を聞いたところ,「できるだけ転職せずに同じ職場で働きたい」と回答した人の割合が 31.5%で最も高く,「職場に強い不満があれば,転職することもやむをえない」が 28.6%,「職場に不満があれば,転職する方がよい」が 14.2%となっている。「つらくても転職せず,一生一つの職場で働き続けるべきである」という人は 4.8である。(p.89)

 

スウェーデンでは「職場に不満があれば,転職する方がよい」が47.4%で最も高く、「できるだけ転職せずに同じ職場で働きたい」は14.7%、「つらくても転職せず,一生一つの職場で働き続けるべきである」に至っては1.7%に過ぎない。日本では転職に消極的だが、スウェーデンは他国と比べても一つの職場に留まる意識は低く転職に対して積極的である[13]

 

・現在または将来の不安

 

現在または将来の不安について日本の若者に聞いたところ,「十分な収入が得られるか」(78.0%),「老後の年金はどうなるか」(77.6%),「働く先での人間関係がうまくいくか」(74.8%),「そもそも就職できるのか・仕事を続けられるのか[14]」(74.6%),「社会の景気動向はどうか」(73.5%),「きちんと仕事ができるか」(73.0%)の6項目は,『不安』(「不安」+「どちらかといえば不安」)が7割以上を占めている[15]。(p.91)

 

 スウェーデンでは「そもそも就職できるのか・仕事を続けられるのか」が『不安』のうち44.9%で最も高く、「十分な収入が得られるか」の44.5%が次点となっているように、『不安』が過半数を占める項目はない。将来の収入に関わる「老後の年金はどうなるか」「社会の景気動向はどうか」についての『不安』はそれぞれ日本の半分に満たない36.6%、32.5%である。スウェーデンは全般的に他国よりも『不安』の回答が少ない。

 

・大学など(高等教育機関)への進学について

 

日本の若者に進学についての考えについて聞いたところ,「進学したいと考えているが,自らの能力面で不安がある」が 45.4%と最も高い。次いで「進学したいと考えており,特に不安はない」(28.7%),「進学したいと考えているが,費用の面で不安がある」(13.2%)の順となっている。「進学する必要性を感じない」のは12.7%である。(p.101)

 

 日本と同様にいわゆる受験戦争がある韓国も「進学したいと考えているが,自らの能力面で不安がある」と感じている割合が高い(48.5%)。スウェーデンでは「進学する必要を感じない」という回答が21.5%あり、際立った特徴を見せている。また「進学したいと考えているが,費用の面で不安がある」については8.8%で、学費がほぼ無償[16]のドイツ(6.7%)に次いで低く、フランス(8.9%)とほぼ同じである。

 

・教育費の負担

 

日本の若者に教育にかかる費用負担について聞いたところ,「基本的には,本人またはその親が費用を負担すべき」が 42.6%で最も高いものの,「基本的には,社会全体で費用を負担すべき」(40.3%)も4割台であった。(p.103)

 

 日本では個人負担と社会負担の立場が拮抗している。スウェーデンでは「基本的には,社会全体で費用を負担すべき」が圧倒的に高く、74.9%を占める。「基本的には,社会全体で費用を負担すべき」という割合(12.1%)は他国と比べても半分以下である。

 

・調査を踏まえて

 

 スウェーデンの回答に見られる特徴は、個人主義が徹底されている[17]、社会に対して前向きである、結婚や離婚はすべき/すべきでないという問題でなく当事者に委ねられた選択である、家庭と仕事の両立が進んでいる、転職に積極的である、そして教育費は社会が負担すべきであるとする点である。

 翻って日本の回答に見られる特徴は、他国と比べてずっと不安を感じている、自分への満足感が低い、社会の将来に悲観的である、家庭と仕事の両立が進んでいない、金銭的な不安が大きい、社会での成功に運やチャンスの要因を見る、一つの職場に留まる傾向が強いといった点である。

 調査結果を踏まえた加藤弘通(北海道大学大学院教育学研究院准教授)は自尊感情とその関連要因の比較を行っており[18]、以下にその一部を抜粋する。

 

日本の青年の場合は,「自分への満足感」が自己有用感との関連のなかで考えられているのに対し,他国の青年においては,「自分への満足感」が自己有用感とはあまり関係なく考えられている可能性があるということである。(p.125)

 

つまり,日本の青年の「自分への満足感」には,各国の青年と共通して,長所の存在や自分の考えをうまく伝えられること,難易度の高い課題にチャレンジしてみることなどが強く関連している一方で,「今が楽しければ良い」といった刹那的な要因の関連性はそれほどでもなく,また弱いながらも他者への不信感が関連しているということである。(p.132)

 

スウェーデンの青年の「自分への満足感」に関連する要因の特徴をあげるなら,自己認識については,長所,挑戦心,主張性といった対自的な要因が強く関連していることである。また自己有用感との関連性は,日本の青年ほど強くないものの,関連性がみられた。人間関係・社会的居場所について,家庭,友人関係,学校への満足感が比較的強く関連している。(p.131)

 

 ここで言われている自己有用感とは「自分が役に立つと感じている」ことである。加藤は分析を通じて、日本の青年は自尊感情が他国と比較して低いというよりも、それが他国の青年と比べて異なったあり方であることを指摘している。日本では自尊感情(自分への満足感)が自己有用感と関連して、いわば対他的に定まっているのに対し、他の諸国では対自的に定まっている可能性があると考えられている。対他的であることと、若干ではあるが他者への不信感が自尊感情に負の影響を及ぼしていることは無関係でないだろう。スウェーデンでも自尊感情と自己所有間に関連性が見られるものの、家族や友人関係それに学校への満足感が比較的強く関連していることは日本の青年とは違った様相を呈している。言うなれば、日本の青年は対自的に自らに満足するよりも信頼できる他者の役に自分が立っていることで以て自尊感情がわくのに対し、スウェーデンの青年は対自的に自らに満足しており、そのうえで人間関係や社会的居場所での高い満足感がさらに自尊感情を引き立てているものと考えられる。

 日本の青年がこのように他者との関わりで自尊感情を抱くならば、就職難や失業によって他者との関わりが断たれ、自分が役に立っていないと強く感じるとき自尊感情は著しく損なわれることになる。このことを踏まえると上記の回答に表れている、日本の青年が自分の人生を自由に動かせるとあまり捉えていないことと、社会的経済的不安を抱えていることは無関係でないように思われる。すなわち、社会にあって自己有用感を抱けない状況とは端的に言えば経済的に難しい立場―就職難や失業―にあるときであり、そのようななかで他者との関わりをもてない若者が自分の人生を否定的に、つまり自由に動かすことはできないと感じていても不思議ではない。

 日本の青年は他者との関わりのなかで自尊感情と自己有用感を養い、人生に対して前向きになる傾向にあると言える。彼らが人生に不自由を感じるのは社会的経済的不安によって自尊感情と自己有用感が損なわれているからであると考えられ、その回復には社会的経済的サポートが必要不可欠だろう。なお日本とスウェーデンの青年意識に差をもたらしていると思われる両国の生活保障については稿を改めて検討する。

 

[1]舞田敏彦「自分の人生をどれほど自由に動かせるか」『データえっせい』2014年5月8日木曜日http://tmaita77.blogspot.jp/2014/05/blog-post_8.html

[2]※「仕事のこと」は就労者が対象

[3]スウェーデンは日本のような高校卒業後の大学進学が当たり前ではない。いったん職に就いてから大学に入る者の割合が多い。竹﨑(2002)によると「高校新卒者のあいだでの大学進学率は、調査によれば、卒後1年以内が17%のみであった。……卒後3年以内となると、進学率は37%へとつり上がる」とのことである*3

[4]日本の若者が感じている将来への希望は,『自分への満足感』や『自国の将来性』と関連していることが考えられる。『自分に満足している』(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」),または『自国の将来は明るい』(「明るい」+「どちらかといえば明るい」)とする若者は,『将来の希望がある』(「希望がある」+「どちらかといえば希望がある」)と感じている割合が高い傾向にある。(p.28)

[5]これは「スウェーデン人は老若男女とも、「自分でできることは安易に他者に頼ることなく、自分ひとりでやる」という自立の精神を発揮している」という気質の反映と思われる*4

[6]内閣府男女共同参画府が平成21年に行った「男女のライフスタイルに関する意識調査」によれば「固定的性別役割分担意識について、賛成と反対が拮抗して」(p.11)おり、日本ではいまだ払拭されていないと言えよう。http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/lifestyle/index.html

[7]ただしスウェーデンでは「分からない」が日本の約2倍の32.3%である。

[8]なお結婚には事実婚も含まれている。

[9]この回答結果で興味深いことは「政策や制度については専門家の間で議論して決定するのが良い」に対し日本の『そう思う』という回答が他国よりもぐんと低い(36.8%)ことである。

[10]自国の将来を『明るい』と考えている割合は日本が最低だが、『重い』と考えている割合はフランスが最も高い。

[11]『自国社会の問題』について,日本の若者の社会への満足度別にみたところ,『不満(「不満」+「どちらかといえば不満」)』と考える若者は,「就職が難しく,失業も多い」(56.7%)や「よい政治が行われていない」(52.2%)をあげる割合が高い。次いで,「まじめな者がむくわれない」(48.8%),「正しいことが通らない」(41.4%),「若者の意見が反映されていない」(40.5%),「学歴によって収入や仕事に格差がある」(40.2%)があがり,これらをより強く感じていることがわかる。また,『満足』(「満足」+「どちらかといえば満足」)と考える若者との差が大きい項目をあげると,「よい政治が行われていない」,「若者の意見が反映されていない」,「正しいことが通らない」,「就職が難しく,失業も多い」,「貧富の差がありすぎる」等となっている。(p.73)

[12]日本ではこの項目への回答は6.5%しかなく、7か国中最も低い。

[13]「職場に不満があれば,転職する方がよい」と「自分の才能を生かすため,積極的に転職する方がよい」が合わせた回答はスウェーデンが54.6%で、次点のドイツ(40.5%)や他の諸国(20~30%)を大きく上回っている。

[14]『そもそも就職できるのか,仕事を続けられるのか』という仕事に対する不安を抱える若者(「不安」+「どちらかといえば不安」)は,結婚・育児のイメージをもつ割合が低い傾向となっており,就労状態や就労に関わる不安が結婚・育児の将来イメージへ関連していることがわかる。(p.40)

[15]日本はほとんど項目で他国より『不安』を感じており、そうでないのは「きちんと仕事ができるか」(日本はフランス78.0%の次点)、「健康・体力面はどうか」(日本はフランス68.2%の次点)だけである。

[16]ドイツは2006年から授業料を徴収していたが、再び無償化することが決まった。「This Country Just Abolished College Tuition Fees」(THINK PROGRESS Oct 1,2014)のなかで、最後に無償化を決めたLower Saxonyの科学文化長官は“We got rid of tuition fees because we do not want higher education which depends on the wealth of the parents”(高等教育を受けられるかが親の収入に依存しないために我々は授業料を撤廃する。)と表明した。

[17]スウェーデンにおいては自立が求められるとともに、人々が自立できる仕組みが整えられている。「できることは自分で、できないことは他人と」がスウェーデンの特徴と言える*5

[18]北海道大学大学院教育学研究院准教授加藤弘通「自尊感情とその関連要因の比較:日本の青年は自尊感情が低いのか?」日本内閣府「平成25年度我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」第3部 有識者の分析http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 

*1:過去に書いた似たような記事として 

私のでない人生を生きる理由はあるのか?個人とは“この私”である。 - ここに広告塔を建てよう

誰が為に福祉は在る―「する側」の論理を超えて― - ここに広告塔を建てよう

*2:Sen, Amartya Kumar,池本, 幸生,野上, 裕生,佐藤, 仁:不平等の再検討 : 潜在能力と自由 岩波書店 1999

*3:竹崎, 孜:スウェーデンはなぜ少子国家にならなかったのか あけび書房 2002

*4:高岡, 望:日本はスウェーデンになるべきか PHP研究所 2011 p.46

*5: 岡沢, 憲芙,中間, 真一:スウェーデン : 自律社会を生きる人びと 早稲田大学出版部 2006