12月に提出する修論のアウトラインを更新(6月8日版)

  3月27日にアウトラインを初めて公開してから2ヶ月以上が過ぎた。あれから私が何かを信じてこれたかはさておき、あのころの未来にはまだ立っていない。提出は6ヶ月先である。3月末に私が何を考えていたかについては、そのときの記事を参照してもらいたい。

 

alldependsonme.hatenablog.com

 この間に私は木村周市朗氏(成城大学)の論文を中心に研究を進めてきた。CiNiiおよび機関リポジトリで入手できる30本弱の論文のうち、ほとんど目を通した。先日あらためて検索したら新たな論文が登録されていた。氏の論文は50頁を下らないことがままあるので、読み通すには時間がかかるものの、註含めて丁寧に書かれているので後学の身には大変ありがたい。40年以上ドイツ社会政策を研究してこられた氏の論文を最初期から読んでいると、社会政策の歴史が一本筋が通ったものとして分かってくる。

 ひるがえって、ドイツ社会政策について学んでいるとその影響を受けた日本についても気になってくる。あれこれと疑問が浮かんでは新たに論文をダウンロードしたら、書籍を検索したりして帰国後の研究に備えている。高校時代は日本史選択で、唯一まともに勉強した科目だったので、Wikipediaであらためて記事を読むと、当時覚えた出来事が活き活きとして目に浮かんでくる。

 さて、今回のアウトラインは今後書く必要があると思われる事項を並べたのみである。まだ肉付けはされておらず、見通しにとどまる。ただ、こうしておくと何を書いたらいいかが明確になるので、頭の中がごちゃごちゃせずに済む。

 修士論文には時間的制約を考えると、日独どちらも第二次世界大戦終了直後までしか盛り込めないだろう。もともとこの研究は、膨大に蓄積されている福祉国家研究が大戦後に偏っている状況を補うものでもある。福祉国家の危機が論じれてから40年以上が経ち、いまでは福祉国家の変容が主として論じられている。これからの福祉国家がどうなるか見通しを立てるには、福祉国家が辿ってきた道を、これまでの研究の視点よりも過去において捉えなおすことが必要であろう。

 修士論文に活かせるかはまだ分からないものの、私の念頭にはポール・ピアソンが『ポリティクス・イン・タイム』で書いたような、時間的視点を取り入れた研究方法がある。今までの蓄積をなかったことにして制度設計はできない。だからこそ「いつ、どうやって、誰の手で、いかなる状況で」制度が生まれ、「いつ、どのように、誰の手を通じて、いかなる状況で」制度が変わっていったか明らかにする必要がある。

 前置きが長くなってしまった。最新の修論アウトラインは以下の通りである。

 

「福祉の政治過程に関する日独比較:国家干渉および私的自治の観点から」

2017年6月8日 

高階英樹(人文社会科学研究科公共研究専攻) 

 

1.   研究の対象、手法 

A.      問い(研究の対象)

       i.     いかにして日本で福祉国家が形成されたか

B.      答え(研究の目的)

       i.     強い国家干渉と弱い私的自治が相まって形成された

C.  論拠(研究の手法)

       i.     明治期以降の日本に影響を与えたドイツの福祉政治過程との対比から明らかとなる

 

2. 検討する概念の整理

A.  福祉Wohlfahrt

B.  公共の福祉Gemeinwohl

C.  ポリツァイPolizei

D.  社会政策Sozialpolitik Social reform

E.  福祉国家Wohlfahrtsstaat Welfare state

F.  法治国家Rechtsstaat

G.  社会国家Sozialstaat

 

3. ドイツ社会政策史

A.  旧福祉国家

B.  カントによる旧福祉国家批判

       i.     「幸福主義」批判

C.  ポリツァイ学の変容

       i.     「福祉」を除外して「安全」に限定

D.  法治国家論の興隆

       i.     自然法の否定と実証法学

     ii.     国家目的と法との分離

E.  「社会問題」の発生と深刻化

       i.     パウペリスムス

F.  社会政策論の登場と発展

       i.     ローベルト・フォン・モール

     ii.     ローレンツ・フォン・シュタイン

    iii.     アドルフ・ヴァーグナー

G.  国家干渉の正当化

       i.     ビスマルク国家社会主義政策

     ii.     ケッテラー司教による演説

    iii.     エルバーフェルド制度

     iv.     シュトラスブルク制度

H.  第一次世界大戦

       i.     総力戦体制

I.  ヴァイマール共和国

       i.     自由主義と「家族の危機」

     ii.     家族保護ワーカー

J.  第二次世界大戦

       i.     ナチスによる統制

K.  社会的法治国家

       i.     福祉国家の否定

     ii.     社会政策と総合社会政策

 

4. 明治期日本へのドイツの影響

A.  不平等条約明治維新

B.  岩倉使節団

C.  伊藤博文憲法調査

D.  学者および官僚のドイツ留学

       i.     後藤新平

     ii.     金井延

E.  内務省衛生・治安局による主導

       i.     窪田静太郎

     ii.     井上友一

    iii.     小河滋次郎

F.  日本の社会政策学会

 

5. 日本社会政策史

A.  秩禄処分と士族授産

B.  恤救規則

C.  工場法

D.  方面委員

E.  健康保険法

F.  救護法

G.  厚生省創設

H.  社会事業法

I.  労働者年金保険法

J.  占領期の福祉政策

 

6. 国家干渉と私的自治(いかにして個人の自由は保障されうるか)

A.  福祉国家ないし社会国家の正当性

       i.     福祉国家

     ii.     社会国家

B.  新自由主義

       i.     20世紀前半

     ii.     20世紀後半

C.  福祉国家の「危機」と変容

       i.     1970年代

     ii.     1990年代

D.  公共の福祉と人権擁護