海とヌードル
4月10日に、青春18きっぷを使って安房鴨川に行った。
きっぷが1日分余っていたこともあり、電車に揺られて、海を見た。
安房鴨川という名前は、村山由佳の『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズで知った。
ただ安房鴨川に行ければそれでよかったため、駅に着いた途端に目的は果たされた。
駅のわりに新しいトイレが、どことなく不釣り合いだった。
とりあえず海を目指すことにした。
途中で自動販売機のスペースがあって、そこで売られているカップヌードルが魅力的だった。
お腹が空いていて、ラーメンの気分だったこともある。
海には人がまばらにいて、テントを砂浜に張ったりサーフィンをしたりしていた。
そこで突然、海を見ながらシーフードヌードルを食べる案がひらめいた。
こういうお約束事にめっぽう弱い。
電池の少ないスマホで周辺の飲食店を探すことはやめて、さっきの自販機スペースに戻った。
なかに入ると、自販機から放たれた熱が「むっ」と「もわっ」の間で感じられる。
出てきたシーフードヌードルにお湯を入れて海岸の方へ歩いていく。
てきとうなところに腰をかけて、ラーメンをすする。
海を見ながらシーフードヌードルを食べる、ということがしたいだけだった。
食べ終わるころには何とも言えない気持ちになっていた。
暗いわけではないにしても、空一面を雲が覆っているせいで景色が灰色がかっている。
まるで、蒸気で曇ったフライパンの蓋を、内側から見ているかのようだった。
水平線は空と海の合わせ目のように見えた。
その光景は、宇宙船の中に作られた人工の海の姿を思わせた。
ぴったりと閉じられていて、外へは出られない。
安房鴨川の外には出られないような錯覚が一瞬だけよぎった。
ここに住むことはできないと思ってしまった。
どうしてか落ち着かない気分にさせられた。
その街並みに、変われなさを感じ取ってしまった。
一日を経るごとに「新しくなりたい」と思う。
海を見て、晴れやかな気持ちになることも開放感を覚えることもなかった。
晴れた日の海なら、いつものようにあの向こう側へ行きたいと思っただろうか。
名物の海産物を食べることもせずに、駅の向こうにあるイオンの4階でコーヒーを飲んで安房鴨川を後にした。
今度来るときには、よく晴れた日を選んで、鴨川シーワールドにも足を伸ばし、店では新鮮な魚介に舌鼓を打ちたい。