2015年の本ベスト10冊(感想付)

気づけば年の瀬。一年を振り返る頃合いとなってきた。
数えてみれば今年は85冊の本(漫画含む)を読んでいるようだ。
去年は131冊(同)読んでいるから今年は前年比64%といったところ。
さて今年読んだ本のなかで10冊選ぶなら以下の本。

1月23日読了 池内恵イスラーム国の衝撃』

イスラーム国の一番の特徴はその巧みさあると思われる。今回の日本人殺害予告においても、もっとも注目が集まるタイミングを見計らって、しかも大義があるかのごとく、ふるまってみせる。ただ、実のところそれらは戦術の一貫に過ぎず、どこまでもパフォーマンスであると見なせる。イスラーム国は過激派武装組織だが、その行動は綿密な計算に基づいて行われている。イスラム教義を都合よく引いて利用するため、真っ向から反対することは宗教内外の対立に直結するようになっている。たんに力で潰しても新たなイスラーム国を喚ぶ余地がふんだんにある。」

1月27日読了 尾形真理子『試着室で思い出したら本気の恋だと思う』

「私はこのところずっと何もかも区切りがついたら新しい服と靴を買いたいと思っている。いまは選びに行っている時間などない。手持ちの服はもう着慣れてしまって、特別なときに来ていく服はすっかり、特別なときに着るいつもの服になっている。終わりが来たら、始まりのための服と靴を買う。私は新しい自分になりたい。これまで以上に、そしてこれまで以上の私に。引きうけた結果を胸に抱いて、背筋を伸ばして前を見すえたい。この本を読んで、なおさらそう思う。いいお店にも巡りあいたい。」

3月25日読了(9月2日再読) ハンナ・アレント『人間の条件』

「ドイツ滞在中に原語版を読もうとしたものの、最初歩のドイツ語学力では当然読めなかった。その代わり日本語訳はもう一度読み直した。森一郎訳の『活動的生』も買って読みたいところ。」

4月9日読了 伊藤まさこ『ちびちびごくごくお酒のはなし』

「酒好きなら思わず頷いてしまう小話と、思わず作ってしまいたくなるツマミの作り方がひとつになった本。特にキノコのアヒージョは簡単に作ることができて、常備菜として使い勝手がいい。味噌のネギ焼きも乙だ。」

5月21日読了 森絵都『永遠の出口』

「最近小説が読みたくて、お勧めしてもらった本。森絵都の文章にはどこかこう、胸のあたりを爪でかりかりとするような感じがあって、何かを思い返させたり物思いにふけさせたりする。『カラフル』もそうだった。
本の内容は一人の女の子の1年ごとの話、それが9年分。小学三年から高校三年まで。小さいころのふとした記憶や感覚がよみがえって、1年分読むごとに自分の昔と重ね合わせた。この1冊で、自分の紡いだ9年間の物語も同時に繙かれた感がある。」

9月27日読了 二宮元『福祉国家新自由主義 イギリス現代国家の構造とその再編』

学術書となると読みづらい印象が強いけれど、この本は非常に構成がしっかりしていて、途中でつっかえることなく読み進められた。これを読めば戦後のイギリス政治の流れが頭に入る。」

11月7日読了 ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄〈上巻〉』

「こういう本をいつか自分も書いてみたいと思う。壮大でありながら地に足がついた研究書で、読んで虜になる。」

12月11日読了 湯浅誠 『ヒーローを待っていても世界は変わらない』

「改めて、湯浅誠の物の言い方や書き方が好きだと思う。発せられた言葉も書かれた言葉も力みがなく、淡々としており、平易な言葉遣いで核心を突いてくる。「主権者は、降りられない」という一文に、ハッとさせられた。「民主主義がめんどくさい」と言って、おれ辞めるわとイチ抜けできるものではないのだ。自分の人生を、誰かに決められるのではなくて自分で決めたいのなら、それが実現できるようにめんどくさいながらも他者と協力するとか自分の考えを伝えるとかしていかないといけない。めんどくさい分、それが実を結んだ達成感もひとしおだ。」


12月17日読了 駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする』

「駒崎さんは言葉の使い方、文の作り方がうまいなと思う。あっという間に読んでしまった。社会的企業事業はそれを利用する人のみならず、利用者とつながりのある人にも福利を提供する。病気になった子どもを預けられたら、子持ちで働く人は安心ができる。雇う方からすれば従業員の欠勤リスクが下がる。病児保育のサービスがあれば、いずれ子育てを考えている働く人たちの心配も少なくなる。さらに駒崎さんは、そもそも子どもが病気になっても休めない会社のあり方を改善する行動も起こしている。本のタイトルそのままの人だ。」


12月27日読了 山野良一『子どもの最貧国・日本』

「これを読めば「子どもの貧困」の何が問題かについて概観できる。著者は留学したアメリカの理論や研究を主に取り上げながら、児童福祉司の経験をもとにした事例を紹介している。貧困が子ども自身に及ぼす影響の実態がよく分かる。この本を読んで、貧困とはなによりその状況に自力では到底抗えないことであると感じた。貧困に陥ると適切な介入がない限りますます困窮していく。状況を変えられないのだ。貧困でない人が、健康に気を使ったり勉強したりして自分の生き方をより良い方へ変えられるのとはまったく異なる。貧困は人間から抵抗と向上を奪う。」


読んだ本を登録してあるので改めて見てみると、ああこれを読んでいたときはこういう時期だったなあと思い起こされる。
今年は諸事情があって、あちこちに飛び回ったり、さまざまな分野の本を引いたりで、肝心の専門を今一つ深化させられなかった。
その分得たものを、来年にどう活かすか。